しかし、現実として「うそをつく」不動産業者はたくさんいる。これを読んでいる人の中にも、過去に「不動産屋にだまされた」という記憶を持っている人は多いと思う。

実のところ、不動産取引においてうそをつくと、違法になることがほとんどだ。だから、多くの業者は違法になるほどのうそはつかない。まぁ、中にはアウトなうそをついているケースも多々あるのだが。

うそをつくというよりも、伝えなければいけない情報を伝えないというケースが多い。中古マンションの場合だったら、過去にその住戸で「人が不自然に死んだ」ということを購入希望者に言わなかったりする。この場合、人が死んだ後に、関係ない誰かが1回住んだら、「もうそれで伝えなくてもいい」という不動産業者的なルールが存在する。これはあまり納得できない。

良心的な業者もいる。「もしそれを知っていれば買わなかったであろう」というようなことは、必ず伝えるべきだという考えを実践しているところだ。

今、小学館が発行している「ビックコミック」という漫画雑誌に「正直不動産」というシリーズが連載されている。ちょっとした異次元的な出来事から、一切うそをつけなくなった不動産営業マンのお話である。これが結構面白い。

前段で述べたが、業者は、あからさまなうそをつくと違法となるが、本来エンドさん(一般人)が知りたいであろうことを伝えなくても違法にはならない。賃貸住宅を斡旋する場合は「この部屋のオーナーはとんでもない強欲」だとか、戸建て住宅を販売する場合は「この場所は30年前には沼だった」というようなことだ。

ところが「正直不動産」の主人公は、うそが言えないから、そういうことまで正直に伝えてしまう。すると、取引は成立しない。そして、社内での成績がどんどん落ちてしまう。あたり前だ。

この「正直不動産」の原案作成者や担当編集者と話をする機会があった。「正直なままで、どこまでやるのですか?」と聞いてみたが、笑って答えてくれなかった。

不動産業界の常識は、正直にやる必要はみじんもなく、取引を成立させることが最重要。そして、少しでも多くの仲介手数料を得ることだ。

業者をすべて「うそつき」と捉える必要はないが、彼らがどういう行動原理でわれわれに接しているのかを理解しておきたい。

■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。